配当生活のために税金の仕組みを理解する

日常生活

ツイッターを見てるとたまに、配当課税と株式譲渡益課税が現行の20.315%から増税されるのではないかというコメントが目に付きます。確かに、他の先進国と比べてみると25%から30%に上がる可能性は否定できません。ただ、この税率は源泉分離課税の税率であり、配当において選択できる総合課税を選んだ場合は、全く関係ありません。

ここでは、配当金について総合課税を選んだ際に、配当金以外の収入がない場合にいかに総合課税で税率が下げれるのかをまとめてみたいと思います。

先進国の配当課税と株式譲渡益課税

いずれも財務省のHPで公開されている2021年1月時点の情報です。源泉分離の税率は欧州並みの25%〜30%というのはかなりありえそうです。

配当課税
株式譲渡益課税

所得税の計算

総合課税を選んだ場合は所得税は0〜45%となります。このことから、源泉分離課税の所得税率分15%以上となる330万円までは、総合課税を選んだほうがお得という情報をたまに目にしますが、収入が配当金だけの場合は間違いとなります。その理由は、各種控除を考える必要があるからです。

なお、上記の財務省の資料に10〜55%とあるのは住民税10%を含んでいるためです。ここでは住民税と所得税を分けて考えたいと思います。

総合課税計算の際に使える各種控除

総合課税の場合は、単純に言うと

配当収入ー所得控除=①課税所得✖️税率=②税額ー税額控除=実際に支払う税金

となります。つまり、所得控除と税額控除を考えないと実際の税金というのはわかりません。

所得控除の種類

所得控除は全部で15種類あります。

この中で、誰でも使える控除として基礎控除(48万円)があり、配偶者の所得により配偶者控除(38万円(配偶者の所得が48万円以下の場合)、配偶者特別控除(31万円(配偶者の所得が103万円の場合))があります。さらに、社会保険料控除やふるさと納税で有名な寄付金控除など、他にも使える控除がたくさんあります。

つまり、税率を掛ける元となる上記計算式①課税所得は、これらの所得控除を引いた数値であり、基礎控除と配偶者控除だけだとしても88万円までは税金がかかりません。

税額控除の種類

配当収入から所得控除を引いた数値に税率を掛けて税額を出した後、さらに税額控除を引くことができます。この税額控除は、配当控除、外国税額控除、住宅ローン控除などがありますが、ここでは配当控除がポイントです。配当控除は、配当金の種類によって分かれますが、我々が普通に株式を買って受領する配当金の場合は、配当金✖️10%が配当控除となります。

所得税計算例

例えば、400万円の配当金を受領したとして、基礎控除と配偶者控除のみの場合の総合課税での所得税額はいくらになるのでしょうか。

400万円ー88万円(基礎控除、配偶者控除)=312万円(①課税所得)✖️10%ー97,500円=214,500円(②税額)

214,500円ー400,000円(配当控除)=▲185,500円

ということでマイナスになってしまいました。ですので還付が受けられます。配当金は受領時に税金が源泉徴収されます。所得税は15%なので60万円が源泉徴収されていますが、総合課税における税額はマイナス(マイナスの場合はゼロ)なので、全額の60万円が還付されます。

住民税の計算

住民税についても、総合課税の場合の計算式は所得税と同様です。違いは、所得控除の額が多少異なる(基礎控除43万)こと税率が一律10%であることです。税額控除としての配当控除もあり5%となります。簡単に計算してみます。

400万円ー81万円(基礎控除、配偶者控除)=319万円(①課税所得)✖️10%=319,000円(②税額)

319,000円ー200,000円(配当控除)=119,000円

総合課税における住民税は119,000円となり、源泉分離課税の200,000円と比べて低いので差額の81,000円が還付されます。

ですが、住民税は注意が必要です。日本の住民サービスのレベルを決定する際の所得の判定は全て住民税申告時の所得が基本となっています。そしてこの計算の際の住民税申告とは、総合課税のみが参照されます。ということは、源泉分離課税にしておけば所得にカウントされなかった配当収入も、総合課税とすることで所得とみなされ、国民健康保険の保険料などのUpに繋がります。

じゃあ、源泉分離課税しか選択肢がないじゃないかという話になりますが、上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択という制度があります。これは平たく言ってしまうと、所得税は総合課税、住民税は源泉分離課税と異なる課税方式が選べる制度です。これを利用することで、所得税のみ総合課税とし還付を受け、住民税は源泉分離課税で配当金の5%の税金を支払う代わりに、所得に含めないということができてしまいます。

上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択が撤廃されない限りは、方針は変わりません。所得税は総合課税を選ぶことで、源泉分離課税での増税は回避することができます。住民税の増税は回避できませんが、ここはどうしようもありません。

源泉分離課税の税率が上がった時の対応

問題は、上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択が撤廃された場合です。総合課税を選択することにより影響を受けるのは、大きく①国民健康保険の計算、②高校無償化や保育園無償化などの教育サービス、③子ども手当などの受領、④日本学生支援機構などの奨学金の申請、⑤介護保険の自己負担となります。

この中で、国民健康保険については別に記事にもしている法人化を検討することで影響を回避することができます。

②〜④は子供関係の住民サービスです。ここは、子供がいる間はバカにできない影響があります。そして、⑤は老齢期になり介護が必要になった際の介護保険の自己負担率が3割〜1割と大きな影響があります。

子供が大学卒業後〜介護保険のお世話になるまでの期間は、法人化を組み合わせることで仮に上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択が撤廃されたとしても大きな影響はないと思いますが、介護保険のことを考えると申告分離課税の増税よりも、上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択の行方のほうが大問題と言えそうです。

ただ、以前は上場株式等に係る譲渡所得等・配当等の住民税課税方式の選択は、毎年市区町村に紙の申請書を出さなければ適用されませんでしたが、来年度から住民税の確定申告の際にチェックをすると市区町村で適用してくれるとさらに便利になりました。

どういう意図で国がこの制度を認めているのかわかりませんが、これらの動きを見る限り撤廃はないのではないかと思っています。

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