あまり大きな声では言いたくありませんが、現在の日本の税制は資産所得で生活をする人に有利な制度となっています。その根源は、様々な社会保障や行政サービスのレベルの決定に住民税が使われるのですが、その住民税の計算時に資産所得を計算対象外にすることができるためです。
不動産所得や事業所得があるアーリーリタイアの場合は法人化も考えないと最適化は図れませんが、資産の取り崩しもしくは株式の配当金のみでアーリーリタイアを考えている人にとってはこの仕組みを知っておくはとても重要です。
住民税の総所得金額等
住民税を計算する時には、合計所得金額と総所得金額を考える必要があります。
住民税非課税世帯や国民年金保険料の免除、国民健康保険料の減免などの根拠となるのは住民税の総所得金額になります。そして総所得金額は、合計所得金額から損失を控除した金額です。つまり、合計所得金額には何が含まれるのかを押さえればよく、合計所得金額の定義は以下の通りです。
- 合計所得金額:事業所得、給与所得、雑所得(公的年金等にかかる所得など)、配当所得、不動産所得などの損益通算後の「所得金額」を合計した金額のこと。
- 土地・建物等の譲渡所得など、他の所得と分離して課税される所得も含まれる。
- ただし、分離課税となる退職所得、源泉徴収された株式の譲渡所得や配当所得は含まれない。
ここでのポイントは、3つ目の例外でして、源泉徴収された配当所得は計算に含まれないという点です。配当所得は何もしなければ、受領するときに証券会社で20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が源泉徴収されるので納税については考える必要がありません。そして、合計所得金額を出すときにこの源泉徴収された分は含めなくていいのです。
そのため、配当所得、譲渡所得のみが収入源の場合、合計所得金額は0ということになります。
なお、よく勘違いするのですが、給与については給与収入ではなく給与所得なので、給与所得控除後の金額が対象です。
住民税非課税
住民税非課税の計算は、以下の通りです。
同一生計配偶者(注意2) および 扶養親族がいない場合
45万円(給与収入のみの場合、年収100万円)
同一生計配偶者 または 扶養親族がいる場合
35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+1)+31万円
※扶養親族数には、16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)も含みます。
※同一生計配偶者は、納税義務者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等に該当するものを除く)で、合計所得金額が48万円以下の場合。
※均等割額は課税、所得割額は非課税となるのは、単身の場合はかわらず、配偶者・扶養親族がいる場合は、最後の31万円が42万円となります。
従って子供二人家庭の場合は、主たる生計者の総所得金額171万円以下がラインとなります。
国民年金保険
まず、基本として給与所得者は厚生年金保険に加入するため、国民年金保険料は払いません。そして、国民年金保険料は、全国民一律で1カ月16,540円(198,480円)であり2年前納で最大で15,850円安くなります。
国民年金保険は、前年所得に応じて以下の基準で減免措置があります。なお、ここでいう前年所得とは住民税の定義で言う合計所得金額と同一です。
全額免除(4/8):(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円
4分の3免除(5/8):78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
半額免除(6/8):118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
4分の1免除(7/8):158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
※括弧内は、年金の受領額。
従って子供二人家庭の場合の全額免除ラインは、主たる生計者で162万円となります。なお、配偶者や子供も個別に判定されるので、配偶者の所得は57万円が上限となります。
また、扶養親族が16歳~19歳の場合は一人につき63万円となります。配偶者も扶養親族の数にカウントできるのですが、カウントできる所得の上限が不明です。
国民健康保険
国民健康保険の保険料は、市町村ごとに微妙に違いますが概ね一緒です。そして特徴は世帯で考えるということです。所得割額は世帯の全員を個別に計算しその合計となります。
所得割額 (前年所得 – 33万円) | 均等割額 (×加入者数) | 平等割額 (一世帯あたり) | |
医療分 | ×9.46% | 17,750円 | 32,020円 |
後期高齢者医療制度 | ×3.09% | 5,730円 | 10,330円 |
介護分 | ×2.53% | 5,330円×40歳以上 | 7,380円 |
合計 | 15.08% | 23,280円 5,330円 | 49,730円 |
減免措置は次の通りですが、この減免は均等割額・平等割額に対する減免となります。基準は合計所得ですが、世帯全体の合計金額となります。
7割軽減:33万円『43万円+10万円×(給与所得者等の数注意1ー1)』以下の世帯
5割軽減:147万円『43万円+国保加入者数×28万5千円+10万円×(給与所得者等の数ー1)』以下の世帯
2割軽減:241万円『43万円+国保加入者数×52万円+10万円×(給与所得者等の数ー1)』以下の世帯
均等割額は家族4人で夫婦は40歳以上とすると年間103,780円ですので5割軽減だと、均等割額・平等割額合わせて153,510円が76,755円となります。
家族4人世帯の合計金額計算例
ここでは、家族4人世帯の総負担額を見てみましょう。まずは単純に配当所得以外の収入がない場合です。国民健康保険も7割減になります。
住民税 | 国民年金 | 国民健康保険 | 合計 | |
合計所得ゼロ | 0円 | 0円 | 46,053円 | 46,053円 |
次は、少しバイトなどで給与所得を稼ぐ場合です。法人化して給与を受け取る場合もこれになります。
まず基本的なこととして、給与所得控除55万円があるので55万円までは上記の計算に影響は及ぼしません。その前提でいろいろなラインを見ていきましょう。
合計収入 | 夫 | 妻 | 合計所得 | 住民税 | 国民年金 | 国民健康保険 所得割 | 国民健康保険 均等割 | 国民健康保険 平等割 | 合計 |
143万 | 88万 | 55万 | 33万 | 非課税 | 全額免除 | 0円 | 7割免除 (31,134円) | 7割免除 (14,919円) | 46,053円 |
176万 | 88万 | 88万 | 66万 | 非課税 | 全額免除 | 0円 | 5割免除 (51,890円) | 5割免除 (24,865円) | 76,755円 |
257万 | 154万 | 103万 | 147万 | 非課税 | 全額免除 | 122,148円 | 5割免除 (51,890円) | 5割免除 (24,865円) | 198,903円 |
320万 | 217万 | 103万 | 210万 | 非課税 | 全額免除 | 217,152円 | 2割免除 (83,024円) | 2割免除 (39,784円) | 293,907円 |
※国民年金の全額免除の際に、扶養親族の範囲となる配偶者の所得基準が不明ですが、ここでは配偶者も全額免除基準以下となる57万円としています。
国民健康保険の所得割がでかいため、本当にミニマムを目指すのであれば合計収入176万円以下とするのがいいと思います。逆に言うと合計収入176万円まではあまり負担額は変わらないので、無理のない範囲で給与所得控除を使ったほうがお得ということがわかります。
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